【独自見解】自動運転バス調査から見えた 韓国にあって日本に無い戦略

ソウル特別市並びに韓国政府の戦略に関しての独自の見解です。

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ソウル特別市の条例

・ソウル特別市自律走行自動車の試験運行地区の運営及び支援条例
・서울특별시 자율주행자동차 시범운행지구 운영 및 지원 조례

本件以外も含めて当社レポートでは「自動運転バス」と呼称しています。一方でソウル特別市の条例を忠実に翻訳すると「自律走行自動車」となります。自律走行とは運転手によらないということです。ソウル市の施策を見ると、バスよりも小さな乗用車の自動運転交通インフラも対象にしていると解釈できます。

さて、この条例から読み取ったポイントをまとめます。

上記ポイントに関連する条例の文面です。
(条例文面そのものではなく、関連部分を抜粋するとともに一般的なわかりやす用語に置き換えるなど、意訳してます)

ソウル特別市の戦略

行政サイド、いわゆる官が推進の主体となっています。
市が自律走行自動車の運行に関するプラットフォーム(いつどこでどのような狙いで)を策定するとともに、そのための予算も確保しています。
民間企業の参画が前提の上に、民間同士の類似内容やサービスは、市が統合することが明記されています。

もっとも注目した点は、海外進出も見据えている点です。条文自体は「自律走行自動車技術・製品・サービスの広報のための海外進出支援事業」とあり、支援対象は広報活動のように読み取れますが、最終的な成果は、海外進出・海外ビジネスの確保となります。ソウル特別市の活動というよりも国家的な活動の色合いを感じたポイントです。

ソウル特別市の「自律運転自動車」の歴史と現状

以下にこれまでの歴史と現状をまとめます。

①SWM社 ②SUM社 ③42dot社

すべてを一元統括する「遠隔監視管制室」の設置と運営

各スタートアップが市内各地で運行している自動運転バス類は、ソウル市が設置した管理管制室で統括的に監視され、必要な指示が発令されます。信号機等に設置したカメラ情報の収集と配信も同室が担っています。
これらの設備や体制は、信号連動システムなどと同様に、恒久的なものです。実用化の際は引き続きそのまま運営されます。

一方の日本の状況としては、メーカや自治体を超えての統一的な遠隔管制室はなく、BORDLYが自社運行の自動運転バスを茨城県境町に設置した施設で対応して言う程度です。信号連動対応も、実証実験後には撤去する場合が大半となっており、統一という面でも、恒久施設の充実という点でも見劣りを感じます。

今後の予定

進化や今後の予定をまとめます。

・路車協調設備に2026年までに約1500億won(約170億円)を投資予定

これは、ソウル市内の自動運転バス走行路の信号連携や地上カメラ情報(たとえばバスから死角となる位置の情報)の送信等に係るインフラ投資です。実験路線はそのまま実用化対象となってますので、恒久的な公共投資です。

・深夜運転バス開始(2023年12月~)
約10kmで公共交通が休止する夜間に5往復運行しています。
世界初 自動運転「深夜」バス 韓国ソウル

・深夜運転バスの延長(2024年夏)
上記の路線を東方に延伸し、片道約15kmにて運行が計画されています。

・早朝バスの新設(2024年秋)
同じ大型バスシステムを活用し、公共交通が休止する早朝、午前3時半からの運行が計画されています。距離は片道26kmを予定しています。

既に運行している深夜バスと合わせ、ソウル市内を十字の走行する路線となります。いずれもソウルで最も交通量の多い路線での運行です。実用性を考慮していると同時に、技術的にも難易度の高い取り組みです。

韓国の戦略まとめ

ソウル特別市の自動運転バスに関するこの取り組みとともに、以前調査した韓国政府の「炭素繊維国産化」「高圧水素タンク国産化&国際化」といった施策とを総合し、それらの韓国戦略に関する独自見解をまとめます。

  • 政府・官僚中心にアウトラインを策定、予算を確保
  • 競合も含めて民間企業が広く参加
  • 協業的開発を推進、その成果物は各社で持ち帰りビジネス化
  • ビジネス対象は韓国内に留まらずグローバル目線で

以上により、技術力向上とともにビジネス経済の活性化、とくにグローバルへの進出、その暁としての経済成長と税収増加が見て取れます。

日本の戦略との比較

韓国と比較した場合の課題点に関しての独自見解です。
あまり具体的に記載すると何かと支障があるので、マイルドに簡単にまとめます。

  • グランドデザイン、最終形、儲かるビジネス化などが見えない。
  • 政府(または地方自治体)が主人公になっていない。
  • 雨後の竹の子的に各地で実証走行しているが、包括的に成果と課題を共有する場がない。
  • ハード・ソフト・運行運営を包括的に取り組む企業がない。
  • 恒久インフラとしての路車協調設備の未整備。(期間限定実証走行対応が主で実証後は撤去)

さらに韓国の利点はデジタル先進国という点です。今回の案件はまさにデジタル系スタートアップが取り組みの中核を担っています。

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