「建前」のオンライン会見 自工会 豊田章男会長  トヨタ社長の思いとは異なる発言

12月17日の オンライン会見は、かなり辛辣な内容でした。受け取り方によっては、政治家やマスコミ批判です。

オンライン会見状況に興味ある方は、「テレ東NEWS」のYouTubeをご覧ください。語り口調も含めてリアルな雰囲気が感じ取れます。(冒頭にCM動画が再生されます。5秒経過でスキップできます)

ただ、この会見はあくまでも自工会会長としての外向けの建前の発言でしょう。ある種の牽制球と捉えるべきでしょう。戦略的なトヨタの社長としての目線は、全く異なるところにあるというのが、私の感想です。この辺りの本音と建前に関しては、1月29日の当事務所主催のオンライン無料セミナでお話しできればと考えております。オンライン無料セミナ、ぜひお申込みください。

豊田会長のオンライン会見の主要点を、私なりにまとめてみました。

  • 自工会として2050年に向けて全面的にチャレンジすると決定した。しかしそのためには多くの懸念がある。
  • 技術開発が必須であり、欧米中と同様の財政的支援を要請したい。
  • 国としてのエネルギー変換が必要。
  • それらが適切でないと自動車産業としてのモノづくり・雇用が崩壊する懸念あり。
  • 政治家が現状や制約を正しく理解しているのか? 理解が少ない政治家の方々のガソリン車を止めるという判断は妥当ではない。
  • 軽自動車 日本の特有モビリティ。軽しか対面通行できない道が85%であり、軽の存在をお客様目線で忘れてはいけない。


また、最も時間を割いて説明していた内容が、日本の報道機関の姿勢に対する批判(要望)でした。要点としては、多数意見を主軸として報道するのでなく、少数の特殊な意見をあたかも報道機関が意見を作り上げるがのごとくの姿勢で取り上げているというもので、「明日の朝刊でどれだけ批判していただいても結構だが、この点を主張したい」との発言もありました。秘密警察のごとくという発言まであり、驚きをもって聞きました。

これらの発言をできるだけそのまま、まとめました。

  • -日本の電動化は遅れていると報道しているが、正しくない報道である。日本は進んでいる。
  • -「対立をベースとした議論を止めていただきたい。対立軸をベースとして取り上げると、こうなってしまうんじゃないかな?」
  • -本当のサイレントマジョリティーを主とすべき
  • -あたかも自分たちがニュースをつくっていく。対立軸をベースとして取り上げると、こうなってしまうんじゃないかな?
  • -どんどんどんどん陰口を言う、秘密警察のごとく あの人こんなことを言っているという報道になっていくのではないか?
世界で最も売れているFCV Hyunai NEXO

上記、会見全体に関しての私なりの理解と解釈です。
まず言えることは、日本が明らかに出遅れているとの状況です。また、先に開発に目途がついた地域・国が、規制を強化し、参入障壁を作るという状況があります。EVに関してはEUがその方向にあることは明白で、昨今の状況から中国もその方向でイニシアティブを発揮するでしょう。韓国も国策的にFCVに取り組んでおり、ある面、トヨタの先を進んでいます。

このような状況の中で、日本の特殊性を声高に叫んでも、またまたガラパゴス化となるだけでしょう。特に、軽自動車に関する発言は、明らかに自工会の会長の立場での、どちらかと言えば、自工会の内部向けの発言とみるべきです。

会見の冒頭で日本とドイツ・フランスの発電に占める炭酸ガス発生状況を比較していました。
 <発電内訳>
   日本   火力 77%  ⇔ 再生可能エネルギー&原子力 23%
   ドイツ  火力 60%弱 ⇔ 再生可能エネルギー&原子力 47%
   フランス 火力 11%弱 ⇔ 再生可能エネルギー&原子力 89%
フランスで作ったほうがカーボンニュートラルにいい車になるから、日本では作れなくなる(壊滅的打撃の懸念)

国際的に見ますと、今後の規制は、走行時排出からLCA(製造から廃棄までの排出量規制)に変わっていくものと考えられ、その点で、火力主体の日本は大変に不利です。これは自動車に限らず全産業が不利ということです。エネルギー政策変換を主張しているのもこの視点です。

洋上発電取組み状況の例

ただし、おそらくはEUが先鞭を取って、自動車のLCA規制を掛けるでしょうから、それを見越したエネルギー政策の大変換が必要です。出遅れている洋上発電や太陽光発電の発電機器からの取り組みが必須です。特に洋上発電に関しては、当ブログのこちらこちらでも取り上げたところです。人工光合成として、触媒技術で太陽光から炭酸ガスを分解して水素を作るという夢の技術を現実に変えるというかなりのイノベーションも必要でしょう。

さて、自動車のLCAに関しては、2018年(平成30年)の経産省の資料も参考となります。製造地域によって炭酸ガス量が違うことが明示されています。図は、その資料をセミナ説明用に解説を加えたものです。

この資料からは、日本での炭酸ガス排出を2015年の59gから2030年には41gに低減との取り組み方向性が見て取れます。豊田会長がこの資料を知らないわけがなく、強いて言えば、加速の必要性を訴えたところかもしれませんが、本音は別のところにあるでしょう。自工会会長の立場と、トヨタ自動車の社長の経営戦略の違いといったほうが正確かもしれません。

この点は、次回のブログで掲載できればと考えています。
また、冒頭で説明した1月29日の当事務所主催のオンライン無料セミナでもお話しできればと考えております。

最後に、会見翌日の新聞報道(オンライン・デジタル版)の状況を調べてみました。以下に、アクセス可能なリンクを貼ってあります。

主たる発言対象は、政治家と報道機関でしたが、毎日の記事見出しに
 政府の「脱ガソリン」に苦言
とある以外は触れられていません。報道批判(要望)は全く触れていない状況です。
朝日は比較的長めですが、ロイターの配信の引用です。
毎日は朝日よりは短め、中日も同様。日経はかなり短めで宅配の朝刊でも13面に端っこに4段記事の扱いでした。
読売は掲載を見つけられませんでした。

CO2排出実質ゼロ、電源政策変革と財政支援必要=自工会会長 – ロイターニュース – 国際:朝日新聞デジタル (asahi.com)

トヨタ社長「自動車のビジネスモデル崩壊」 政府の「脱ガソリン」に苦言 – 毎日新聞 (mainichi.jp)

自工会も「50年脱炭素」: 日本経済新聞 (nikkei.com)

「エネルギー政策の大変革必要」 豊田・自工会会長が提言:中日新聞Web (chunichi.co.jp)