もっとも難しい加工プロセス
以前、ミシガン大学の菊地昇先生(前 豊田中央研究所社長)とお話ししていた折に、「高原さんはもっとも難しい加工法を担当されてますね。安くて当然な樹脂部品ですが、樹脂は実に難しいと思いますよ。」とお褒めとも慰めともとれるお言葉をいただいたことを鮮明に覚えています。
金属と比較すると、合成樹脂は歴史が浅いうえに、今でも新材料が上市される状況です。加工のためには熱が必要ですが、300℃程度と比較的使用温度に近く、加工後の部品は使用中の温度での変化が大きく安定しにくいという特徴もあります。何より、高分子なので、物性の分布が大きい、粘弾性的な挙動により、加工時不安定性も大きいものとなります。
プラスチックの特異性 無機物・金属との比較で理解
プラスチックの難しさは、まずもってその構造の不確かさにあります。無機物(たとえばアルミナ Al2O3)や金属(鉄 Fe)と比較すると理解しやすいところです。もっとも簡単な構造のポリエチレンの分子構造は (C2H4)nと表されますが、nを一義的に決めることはできずnが分布しています。長さ違いのポリエチレン分子で構成されているということです。
プラスチック・無機物・金属の分子(ないし結晶)構造を以下の図にまとめました。
図ではポリエチレン分子を直鎖で表しましたが実際は分岐構造を持つものもあります。またnは分布しています。つまり高分子の長さが種々雑多ということです。高分子の長さや分岐構造でプラスチックの特性が変わります。ポリエチレンにはいろいろな種類があるということになります。一方、アルミナも鉄も一義的に構造が定義されるため、基本的には物性も一義的に決まります。
温度や圧力が変化した場合、外力を受けた場合、プラスチック・無機物・金属それぞれの分子(結晶)構造はどう変化するでしょうか?
さきほどの図から、プラスチックは、無機物・金属に比べて容易に変化することが理解できます。たとえば熱を加えた場合、プラスチックは容易に膨張するが無機物・金属の変化量はわずかです。
この変化挙動を以下の図にまとめました。
熱を受けた際の寸法の変化は線膨張係数(CLTE)で表します。以下のグラフのように、金属(Metal)や無機物(Glass)に比べて、プラスチック(Resinと表記)の変化が大きいことが確認できます。
10MPa(およそ100気圧)を掛けた場合、熱を掛けた場合の変化とは逆の現象が起きます。プラスチックは体積が小さくなりますが、無機物・金属はその構造からほとんど圧縮されないことがわかります。
プラスチックへの温度と圧力の影響
プラスチックは熱や圧力の影響を受けやすいことを認識しましょう。変化挙動はプラスチックの種別や各メーカーのグレードでも異なり、pvt特性で表します。pvtは圧力・体積・温度の英語の頭文字です。
以下の図は、pvt特性に先ほど説明したプラスチックの形態変化を合わせて示しています。
なお、このpvt特性は三菱エンジニアリングプラスチックス社の、とあるグレードのPBT樹脂の特性です。
PBTは結晶性樹脂ですので、固体では部分的に分子の規則的は配置構造、すなわち結晶構造が認められます。
固体PBTを徐々に加熱した場合、緩やかな体積膨張を示します。この図では縦軸が体積に相当する比容積(密度の逆数)です。ある温度に達すると結晶構造がほどけて、急激に体積が増加します。融点でPBTが解けた状態です。さらに温度を上昇させると体積も膨張を示します。液体状態の体積膨張は固体状態よりも容易ですので、やや傾斜がきついグラフとなっています。pvt特性の色違いの線は、圧力条件の違いです。常圧0.1MPaは青で示しています。290℃の溶融状態のPBTに160MPaを掛けた場合、比容積は0.95から0.86へと、約10%体積が小さくなることが理解できます。
温度の圧力による体積変化が、成形品のヒケやボイド、変形などの不良の原因となっています。
このように、ていねいに基礎から理解することは、本質の理解に通じ、
成形加工の最適化(最大の生産性で確実に安定した品質)
プラスチック材料の特性の最大活用
が可能となります。
成形不良の原因と対策
ここまで解説してきた「プラスチックと成形加工」の基礎を理解した上で、不良発生の原因検討と対策に取り組みましょう。
以下の解説も参照ください。
さらなる理解のために
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